ハンバーグ、作ろう!
 「やっぱり、あかんかったわ。」
 義姉からの電話で、十日前から受験のため上京し我家に居候している甥の大学受験の結果を知りました。聞くと、電話口で泣く甥に電話を切らないでといわれ、どうすればいいのかわからなかったとのこと。次の希望校の受験を控え、予備校に出かけている甥はどんな顔で帰ってくるのか心配していると、案の定、「ただいま」と力のない声とともに玄関の扉が開きました。「残念だったね。」という言葉に、ただ下を向くだけの甥。どうにも慰める言葉も見つからず、私もただ黙るばかり・・・・・・。

 ふと、「ハンバーグ大好き。食べたらテンションあがるねん。」と言っていた甥の言葉を思い出しました。そうだ、今夜はハンバーグを作ろう。うちの子どもたちも一緒にみんなで作ろう! ところが、あいにくパン粉と牛乳がありません。急遽、甥と娘に買いにやらせ、ハンバーグ作りが始まりました。べたべた、ぐじゅぐじゅ、こねこね・・・・・・「わたし、ハートにする!」「これ、サイコロ」「このデカいのは、俺の」「そんなん、ずるい。わたしはもっと大きいの作る!」大小さまざまのハンバーグが出来上がりました。

 焼きあがったハンバーグをオーブンから出して、遅い夕食の始まり。たまたまその日準備していたクリームシチューも大好物だったようで、甥はおかわりもしながらもりもり食べてくれました。食べ終わるころには声も次第に大きくなり、いつもの笑顔も少しずつもどっていました。

 その後、甥は無事第二希望の大学に合格し、四月から新しい生活が始まりました。慣れない土地での初めての一人暮らし、期待と不安がいり混じった毎日を過ごしていることでしょう。楽しいこともたくさんあります。でも、苦しいことももっとたくさんあるかもしれません。まだまだこれからたくさんの試練を乗り越えなければならないはずです。叔母として、未来に向かう若者を応援する一人の大人として、わたしにできることは大好物の「ご飯」を作ってあげることくらいしかありません。

 落ち込んだ時はいつでもおいで。何も言わなくていいから、また、ハンバーグ一緒に作ろうね!
(藤原典子)



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