子どもの車内熱中症
無意識の置き去りリスク誰にでも
親による無意識の置去り事故発生

昨年7月、栃木県で2才の男の子が父親の車に置き去りにされ、熱中症で亡くなるという痛ましい事故が発生しました。父親は通常、通勤時に男の子を保育園に預けてから職場に行っていたようです。しかしその日は「仕事の事を考えていて」預ける事を忘れ、夕方に妻から連絡があるまで置き去りに気づきませんでした。この日の外気温は32度、車内は締め切られており、一日中、日光にさらされた男の子は腕と足に水膨れができる程の火傷を負っていました。

日本では数年前、パチンコ屋の駐車場で、親に車内に長時間放置された子供達が熱中症で亡くなる事件が多発しました。「短時間だけ」「エアコンをつけているから大丈夫」など、安易な考えで子供を置き去りにして死なせた親たちに非難が集中しました。

一方で栃木の事件は、父親が「無意識に」置き去りにしてしまった点が異なりますが、マスコミ、インターネットの反応は厳しく「ありえない」「親の愛情・資質不足」といったものが殆どでした。パチンコの為に子供を死なせた親達と同列に扱われてしまった印象があります。日本では類似事件の発生が殆どありませんが、海外では多くの事例があり、「誰にでもありえる事」として予防の取組もされています。

 

海外の状況と見解

子供の車内熱中症は、ヨーロッパ、アメリカ、中東、オーストラリア等、世界中で死亡事例があります。アメリカの統計では、年間平均37人の犠牲者が発生しており、ここ十数年高止まりの状況です。9日に1人が亡くなっている事になりますが、事故は春から秋にかけて集中する為、時期によっては数日に1人の頻度で命を落としている状況です。アメリカの事例のうち6割はドライバーによる無意識の置去りが原因とされており、また犠牲者の9割は3才未満の乳幼児でした。

なぜ親が我が子をうっかり忘れてしまうのか。事故事例の調査結果、記憶や認知のメカニズムが原因という説が有力となっています。なにかのきっかけで運転中に記憶や認知の混乱が起き、その際に「子供を預けた」という誤った認知が起きてしまうのです。きっかけは運転者の睡眠不足や疲れ、運転経路変更、用事や考え事など、些細な日常の変化点ばかりです。しかし運転しながら上記変化点への対処で頭がいっぱいになり、その結果、「これから子供を預けにいく」という認知が忘れられ、その後で「既に預けた」という認知にすり換えられてしまう。稀にですがこれが発生した場合、親は自身でこの認知ミスに気付く事は非常に難しく、第三者に子供の所在を聞かれるまで子供は預け先にいると信じていたケースが殆どです。

 

日本でも今後発生リスク増

考え事をしていたら忘れ物をした事は誰にでもあるでしょう。そして自分の子供だけは忘れないと思っている人が大多数と思われますが、アメリカの事例では親の年収・職業・人種・性別に関わらず発生し、これが誰にでも起こりうるという事を示しています。なぜアメリカで事件が多いかというと、大きく2つの理由が考えられます。一つ目は、育休制度がなく、子供を生後間もなくから預けて働く人が多い事。二つ目は、子供は後部座席でのチャイルドシート使用が義務化されている事。助手席でのエアバッグ破裂による子供の死亡事故が急増した事を受け、子供の助手席乗車が禁止されています。しかしこれは運転手の視界に入りづらく、存在を忘れられやすい環境を作っています。この影響は大きいと考えられ、実際に子供の助手席乗車が禁止された90年代後半以降、事故件数は急増。今は助手席エアバッグ破裂による死亡数を遥かに上回る数の子供が毎年命を落としています。日本では、近年幼い子供を預けて働く母親が増えてきています。子供を車で保育園へ送迎する事例も増えると予想され、アメリカの事故発生状況が他人事ではなくなる可能性が十分あります。

 

有効な対策とは

では有効な予防策はあるのでしょうか。運転手の記憶・認知ミスが原因との説に基づく対策は、「リマインダ(思い出させる事)」です。認知ミスが起きてしまうのは脳の仕組みが原因で、予測も防止も不可能です。しかし、認知ミスが起きた後で「まだ子供を預けていない」「子供が車内にいる」事を運転手に思い出させる事ができれば、認知ミスを修正し、子供が車内に置去りになるのを防ぐ事ができます。事故防止活動を推進しているアメリカの団体[KidsAndCars.org]では、次のような予防策を提案しています。

@親の荷物はいつも後席に置き、降りる時に後席を見る習慣をつける。

A子供の荷物を助手席等の見える所に置き、子供が乗っている合図に   する。

B子供の預け先に、もし自分が予定通り預けに来なかったら連絡する    よう頼む。

C子供が車内にいる状態で運転手が車を離れると、アラームが鳴る機   能を車につける。

特にBCについては、アメリカやイスラエルで法規制化の動きもあります。

 「自分の子を忘れて死なせるなんてひどい親だ、私なら絶対ありえないと思っていた。」事故当事者の一人は、自身が事故を起こす前に同様事故の報道を聞いた当時をそう振り返ります。でもその過信が、彼女に予防策を取らせず、彼女から何よりも大切な子供を奪ってしまいました。事故後、当事者たちが経験するのは子供を失った悲しみだけではありません。世間の批判、警察の取調べ、裁判、弁護士費用の捻出、服役等です。もう二度とこのような悲劇を生まない為には、ひとりひとりの意識が何よりも大切です。事故を起こした親を非難しても犠牲者は減らない事を、アメリカの状況が物語っています。幼い子供を持つ親御さんは、今日からでもできる予防策@Aをぜひ実践頂きたいと思います。

 

出典Kidsandcars.org




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