ワーキングマザーがビューした
「ストリートビュー問題」

 ある日突然、自宅の外観写真が世界中に向けて発信される、それがグーグルのストリートビューだ。 住所を入れれば簡単に、日本中、世界中からあなたの家が確認できる。

 もし私が営業マンだったら、これは画期的で素晴らしい検索システムだと絶賛し、すぐに全ての顧客データに「ストリートビュー」で取得した画像を追加するよう、部下に指示をするだろう。写真には、家だけではなく、外構も、車も映っているのだから。まさにビジネスチャンス!

 しかし残念ながら私は、日々子供をめぐる事件に心を痛め、高齢者への次々販売に実家の父を重ねる、心配性のワーキングマザーだ。確認した自宅の画像には、そろそろ買い替え時でしょうと思われる愛車をはじめ、子供たちの自転車、洗濯物、そしてご丁寧にその日出したゴミ袋まで映っていた(当地域の場合、ゴミは自宅前に出すのがルールで集積所は設けられていない)。

 背筋が凍る思いで、即座に削除要請*1)をグーグルにした。併せて、実家の住所を検索したところ、まだ対象エリアにはなっておらずホッとしたのも束の間、グーグルでは、今後はさらに対応都市を拡大し*2)、更なる「サービスの向上」を目指すそうだ。

 4年前、自治会の広報を担当した際、会報に各役員の電話番号を載せるのは時代にそぐわないと、企業戦士の会長の鶴の一声で、記載を中止することになった。その後2年に一度作成していた自治会名簿も見送られるようになり、本当に悲しかった。

 なぜなら、私たちワーキングマザーは、ご近所の方からの情報こそが最も信頼できるセイフテイーネットのひとつだからだ。「××さんの家に空き巣が入った」とか「ゴミが烏に荒らされてましたよ」、「お子さんに公園で親切にされて…ありがとうございました」などなど。ドキっとすることから、さやかな幸せのおすそ分けまで、ちょっとしたことを電話で教えて頂ける、或いは確認できることは貴重だ。我が家に限って言えば、ご近所の方に「何かしでかしていたら連絡ください」と電話番号を配って歩きたいほどだ。

 お宅に伺うほどでもないが、ちょっとしたおせっかいの電話は、ワーキングマザーだけでなく、昼間高齢者だけになる家庭にとっても切望するものではないだろうか。それが欲しくて自治会に入られる方も多いと思う。今や、地域でも、学校でも、習い事先でも、住所や電話番号の公開に慎重になっており、子供たちは年賀状を書くのさえ一苦労だ。

 今年、自治会名簿が復活し、漸く個人情報保護法の過剰反応が収束したかと、胸をなで下ろした矢先のこのストリートビュー問題である。安心、安全という言葉を聞かない日は皆無だが、知っていて欲しい人に情報が行き渡らず、インターネットの向こうの顔の見えない相手に、次々に情報が開示され子供や高齢者がそのワリを食う, この負の連鎖をなんとか断ち切る知恵はないものか。
(平野 理華)
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*1)削除は、ストリートビューのヘルプページから可能。9月1日に削除依頼し、Google マップ チームより9月13日に画像公開の停止メールを受信した。しかし、実際には画像自体は即日削除されており、対応は早かった。
*2)「米グーグルはインターネットで歩行者の目線から街角の風景を見られる無料サービス「ストリートビュー」を日本でも始めた。当初は東京、大阪など12都市の主要部が対象で、順次拡大する。」(毎日新聞より)  



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